テラ(Terra/Luna)は、アルゴリズムによって法定通貨とペッグ(固定)する無担保型のステーブルコインを発行している。また、レンディングサービス、モバイル決済サービス、送金サービスといったDeFiを提供している。
解説 テラ(Terra)とは
テラ(Terra)は、韓国のスタートアップTerraform Labsが開発を牽引するパブリックブロックチェーンプロトコルだ。アルゴリズムによって法定通貨とペッグ(固定)する無担保型のステーブルコインを発行している。
また、テラはスマートコントラクトによって、発行したステーブルコインの普及と流動性を高めるためのDeFiを提供することが可能なプラットフォームでもある。すでに、レンディングサービス、モバイル決済サービス、送金サービスといったDeFiを提供している。
テラが発行するステーブルコインは、オープン市場によるアービトラージ(裁定取引)と分散型オラクルネットワークによる投票を組み合わせた独自のアルゴリズムによって、供給量を調節し価格を一定に保つ。その特徴を生かし、テラは米ドルや韓国ウォン、モンゴルトゥグルグなど各国法定通貨の価格にペッグした複数のステーブルコインを発行している。
【関連記事】nステーブルコインとは|仕組みや種類、日本円ステーブルコインなど解説n分散型金融(DeFi)特集!誰でもわかる解説記事一覧
複数のステーブルコインを発行できるTerra
テラブロックチェーンプロトコルは、ネットワーク上で多数のアルゴリズムによって複数のステーブルコインを発行できるのが大きな特徴だ。ステーブルコインのテラとネイティブトークンのルナ(Luna)の2種類の主要トークンで構成されるエコシステムを持つ。
テラが発行するステーブルコインには、国際通貨基金(IMF)の国際準備資産である特別引出権(SDR)とペッグするTerraSDR(SDT)をベースに、米ドル・韓国ウォン・モンゴルトゥグルグそれぞれにペッグするTerraUSD(UST)・TerraKRW(KRT)・TerraMNT(MNT)などがある。
ネイティブトークンのLUNA
ネイティブトークンのルナは、テラプロトコルのステーキングトークンだ。ルナはテラが発行するステーブルコインの価格維持に利用されるほかに、テラによるプロジェクトの方向性や課題解決のための提案を決定する際のガバナンストークンとしても利用される。
また、ルナを多く保有しステークすることでバリデータとしてルナのステーキングに参加することもできるほか、ブロックチェーンの使用手数料(ガス代)やステーキング報酬にも使われるなど、テラのエコシステムの基本的なトークンとして機能する。
テラ(Terra)の仕組み
テラは、異なるブロックチェーンの相互接続を実現するネットワークCosmos SDKを使って作られたブロックチェーンだ。Cosmosのブロックチェーン開発エンジンTendermintによって開発されている。
DeFiなどDAppsを開発できるテラのスマートコントラクトには、Cosmos SDKベースのCosmWasmが採用されており、プログラミング言語Rustでコントラクトを記述することができる。
ホワイトペーパーには、テラのコンセンサスアルゴリズムはPoSを採用していると記載されている。テラのPoSは、ルナをステークするバリデータのうちのステーク量の多い上位130のバリデータの合意形成によってトランザクションが処理される。秒間100~1000のトランザクションを処理することが可能だという。
テラは、フルノードを実行せずにリワードを受け取りたいユーザーがデリゲータとして参加でき、バリデータにステーキングを委任できることから、コンセンサスアルゴリズムはDPoSであるともいえる。公式サイトでもDPoSと記載されている部分が見受けられる。
Terraの成長とLunaの価格動向
仮想通貨の元々の用途には決済システムといった一面があった。しかし、ビットコインをはじめとする多くの仮想通貨はボラティリティが大きく、投資・投機の対象になってしまったことから、実際の決済の場面には向いていないという実態がある。
そこで新たに注目されるようになったのが、法定通貨と価格がペッグするステーブルコインだ。
2018年創業のTerraform labsは、グローバルな決済システムを構築するために、テラをブロックチェーンプロトコルとしてステーブルコインが発行できるプラットフォームの開発に着手した。Terraform labsは2019年にテラのメインネットをローンチしている。
2020年9月には、Terraform labsの共同創設者であるDo Kwon氏がブログにて、TerraUSD(UST)を主要ブロックチェーンに移行できるブリッジプロトコルDropshipのリリースを発表した。
Dropshipは最初にTerraUSDをイーサリアムとソラナ(Solana)に移行し、人気のあるDeFiアプリとDEXに統合することを発表し話題となった。それにより、テラの利用シーンが一段と増加することになっている。
また資金面においてTerraform Labsは、2021年1月にGalaxy Digital、Coinbase Ventures、Pantera Capitalなどから2500万ドル(27億5000万円相当)の資金調達に成功している。
テラは2021年3月にレンディングサービスAnchorをリリースした。それにより、Lunaの価格が約4倍に上昇し、一時期は過去最高値となる21ドル強を記録している。
Lunaの価格は22年1月5日現在約78ドルで取引されている。出所:Coinmarketcap
Anchorリリース直後は多数のユーザーがこぞってステーブルコインを預け、一時期Anchorプロトコル(ANC)の時価総額が4億ドルに到達し注目を集めた。
2021年5月には、多くの仮想通貨が下落したことからテラはステーブルコインのアルゴリズムがうまく作動せず、ルナもその影響を受けて7割近くの下落となり4ドル程度まで下がっている。Lunaの価格はその後徐々に回復し、8月には10ドル~40ドルまで回復した。
その後9月に、テラの新規プロジェクトProjectDawnが発表され、同時にテラのステーブルコインが海外の大手取引所に上場すると、価格はさらに上昇した。2021年12月は53ドル〜100ドルの間を推移していた。
Terraの価格を安定させる仕組み
改めてステーブルコインの特徴を解説すると、ステーブルコインは法定通貨と価格が連動する仕組みを持つデジタル通貨だ。価格は安定しており、連動する法定通貨の代替として機能する。価格が常に変動する仮想通貨よりも便利であることから、決済用のデジタル通貨として注目されている。
米ドルにペッグするTerraUSD(UST)は、常に1USTが1ドルになるように調整されるステーブルコインのため、決済においてもドルと同等の支払いが可能だ。
米ドルにペッグするステーブルコインは、TerraUSD(UST)のほかにも、イーサリアムブロックチェーン上のMakerDAOが発行するDAIや、USDコイン(USDC)、テザー(USDT)、USDP(旧:PAX)などがある。
TerraUSD(UST)はそれらのステーブルコインとは異なる仕組みで法定通貨とペッグしていることから、その注目度が高まっているのだ。
他のステーブルコインとの違い
ステーブルコインの仕組みは、大きく分けて3つに分類することができる。
前述のUSDC、USDT、USDPなどは、法定通貨担保型のステーブルコインであり、発行されるステーブルコインの量と同等の法定通貨を発行体もしくは第三者に預けることで、ステーブルコインの価値を担保する仕組みになっている。
厳密にいうとUSDTの担保は複数の資産を組み合わせているため全額が法定通貨にはなっていないが、法定通貨担保型に近いとされている。
メーカーダオのDAIはそれらとは異なり、ステーブルコインの発行量以上の価値の仮想通貨によって担保される、仮想通貨担保型のステーブルコインである。仮想通貨はボラティリティが激しいため、DAIの担保には通常150%以上の預け入れが行われる。
ちなみに法定通貨担保型は中央集権的に担保を管理し、仮想通貨担保型は自律分散的にスマートコントラクトによってブロックチェーン上で管理する。両者には担保の管理方法にも違いがあるのだ。
TerraUSD(UST)などテラが発行するステーブルコインは、このどちらの担保型でもない第三の仕組みによって法定通貨とペッグする仕組みであることから注目されている。
テラは独自アルゴリズムによって法定通貨とペッグすることができる、担保を必要としない画期的なアルゴリズム型のステーブルコインだ。アルゴリズム型は、担保不要のため資金効率が良いとされているが、アルゴリズムによる価格変動の維持は技術的に難しいため、これまでは困難とされてきた。
法定通貨担保型、仮想通貨担保型、無担保型(アルゴリズム型)のステーブルコインの違い 出所:Wheatstonesブログ
価格安定におけるLunaの役割
テラのステーブルコインの価格維持の一翼を担うのが、ネイティブトークンのルナだ。役割のひとつとしてルナは、テラのステーブルコインを発行する際にも使われることになっている。
冒頭でも言及した通り、テラが発行するステーブルコインはオープン市場によるアービトラージと分散型オラクルネットワークによる投票を組み合わせた独自のアルゴリズムによって、供給量を調節し価格を一定に保つ。
アービトラージとは、同一の価値を持つ証券や金融商品の一時的な価格差(歪み)が生じた際に、割高な投資対象を売り割安な投資対象を買うポジションを取る両者のサヤを抜く投資手法で、元々は金融業界用語だ。投資対象の価格差が縮小した時点でそれぞれの反対売買を行うことで利益を獲得する。近年はヘッジファンドのリスク回避としても用いられる手法だ。
テラプロトコルはアービトラージによって、テラのステーブルコインの価格変動を吸収する。簡単にいうと、テラプロトコルのエコシステムは、テラプールとルナプールで構成されていると想定すると理解しやすいだろう。価格を維持するためにテラのアルゴリズムは、ルナの供給プールがテラの供給量を増やしたり減らしたりする動きをするのだ。
具体的には、テラがペッグする法定通貨よりも高い価格で取引されている場合、ステーブルコインの需要は供給よりも高いことを意味する。これは、テラの供給を需要に合わせて増やす必要がある状態だ。
このときプロトコルは、ユーザーに対して高くなってしまった価格と同価値のルナを焼却させて同等の価値のテラを発行させる動きを取る。これによりテラの供給が増えてその価格は下がるが、同時にルナの供給は減りルナの価格は上がるという効果が生まれる。
それとは逆にテラがペッグする法定通貨よりも安い価格で取引されている場合は、ステーブルコインは供給過多であり需要が低いことを意味する。これは需要と一致するまで、テラの供給を減らす必要がある状態だ。
このときプロトコルは、ユーザーに対して安くなってしまった価格と同価値のテラを焼却させて同等の価値のルナを発行させる動きをする。これによりテラの供給は減りその価格は上がるが、同時にルナの供給が増えルナの価格が下がるという効果が生まれる。
こうしたアービトラージの両プロセスを、テラプロトコルはテラの価格が法定通貨とペッグするまで継続して繰り返す。それによって、テラのステーブルコインの価格は一定に保ち続けることができる仕組みだ。
TerraのDeFiサービス等、その他の機能
テラは発行したステーブルコインをより普及させるために、ステーブルコインの流動性を高めるためのDeFiサービスを多数提供している。
レンディングサービスのAnchor
レンディングサービスとして提供されているテラのAnchorは、高利回りを提供する預金プロトコルだ。TerraUSD(UST)を一定期間預けることで、金利を受け取ることができる。DPoSのステーキング報酬を利子としていることから、イーサリアムベースのレンディングサービスのような価格の変動などにより利回りが低下するといったことがない。
モバイルペイメントアプリのChaiとMemePay
モバイルペイメントアプリのChaiは、韓国ウォンとペッグするTerraKRW(KRT)を利用した決済ソリューションだ。韓国内のEコマースにて利用されており、手数料や決済時間を大幅に削減できるという。Chaiのユーザーはすでに250万人に達している。
またChaiと同様のサービスとして、モンゴルのトゥグルグとペッグするTerraMNT(MNT)を利用した決済ソリューションMemePayが、モンゴル向けに用意されている。
合成資産プロトコルMirror
また、合成資産プロトコルと呼ばれるMirrorプロトコルもユニークなDeFiサービスだ。
Mirrorは株式や他の資産など現物資産の価格変動を模倣するプロトコルだ。たとえばAmazon(AMZN)、Google(GOOGL)、Tesla(TSLA)などの従来の株式やビットコインなど仮想通貨の値動きを模倣する合成資産Mirrored Assets(mAssets)を発行できる。
投資家はMirrored Assets(mAssets)に投資し、売買することができる。合成資産はパーミッションレスのため、誰でも許可なく投資できるという。より公平な投資機会の提供ができるサービスとして期待されている。
前述したDropshipもまたDeFiサービスのひとつだ。Dropshipは、異なるブロックチェーン間でステーブルコインを送金することができる仕組みを提供する。
Terraの課題、問題点
テラが発行するステーブルコインは、担保が必要な他のステーブルコインとは異なるアルゴリズムによる方法で価格の安定を保っていることから、メリットの大きいステーブルコインとして注目されている。
しかし、その一方で世界各国の金融当局の一部では、法定通貨に類似するステーブルコインを規制する方向で動く気配も見せている。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、バイデン政権がドルなどの法定通貨を裏付けにしたステーブルコインの発行体に対して、銀行と同等の厳しい制限を課すことを検討しているという。規制強化により、利用者や金融システムにリスクが広がるのを防ぐのが狙いのようだ。
また、米証券取引委員会(SEC)は2021年11月12日に、Terraform Labsとその共同創設者兼CEOのDo Kwon氏に対して、Mirrorに関連する召喚状に従うよう指示する命令に関して訴訟を起こしたと発表した。
テラが提供するMirrorプロトコルは、米国証券の価格を反映するmAssetを作成および取引できる。これに対してSECは、Terraform LabsとそのCEOは、証券の提供または販売を登録せず、証券取引所の外で証券ベースのトークンを販売し、未登録のブローカーまたはディーラーとして行動しているため、米国連邦証券法に違反しているのではないかと調査をしているという。
ステーブルコインに関連する法律は完全に未整備の状態で、世界各国でその対応や規制も異なるため、今後も法律面においては様々な問題が発生する可能性があるだろう。すでに提供されているサービスが、新たな法律などによって規制される可能性があることも理解しておきたい。
Terraの今後
テラは、単なるステーブルコインの発行プラットフォームに留まらず、Cosmos SDKブロックチェーンとのクロスチェーン互換性を活用するなど、今後はより多くのブロックチェーンとの相互運用ができるよう様々なブロックチェーンとの接続を目指すという。
Terraform Labsは、DeFiをはじめWeb3やNFT関連のプロジェクトがすでに100以上あるということも公言している。
テラは価格の安定したステーブルコインを各国で供給するとともに、まずはグローバルな環境で利用される決済プラットフォームを目指し、より使いやすいDeFiの構築や新しいサービスの提供を目標としている。
免責事項:
このコンテンツの見解は筆者個人的な見解を示すものに過ぎず、当社の投資アドバイスではありません。当サイトは、記事情報の正確性、完全性、適時性を保証するものではなく、情報の使用または関連コンテンツにより生じた、いかなる損失に対しても責任は負いません。
9.63
0.00